樅山 敦のラブソングのききかた

Track 1

大瀧詠一『夢で逢えたら』

image

 人生で最も多感な時期にグサッと刺さったラブソングは一生忘れない。時代に根付いた特別な記憶となる。この楽曲は、バンド「はっぴいえんど」解散後の1974年に、とあるシャンプーのCMソングをアン・ルイスが歌うことになり依頼・制作された楽曲。ところが大人の事情で(!)採用されず、宙に浮いてしまう。まっ、いろいろあるよね。

 歌詞は“夢でもし逢えたら 素敵なことね あなたに逢えるまで 眠り続けたい”という女性からのラブソング。僕の夢想はむくむくと広がり… “春風そよそよ” “薄紫色した”とあるのを藤の花と想像すると、季節は4月の中旬くらいだろうか。“深い眠りにおち込み”──ポカポカ陽気が気持ち良くて、眠くなるよね。“あなたは私から 遠く離れているけど”は、進学・就職・転勤の諸事情と予想がつく。要するに時が過ぎていく切なさや悲しみ、甘酸っぱさ、ほろ苦さ、そして人の生死。そんな普遍的なことに通ずるラブソングの傑作品と言えるのではないだろうか。

 ガール・ポップを意識した楽曲だけに、1976年に「はっぴいえんど」解散ライブにも出演した吉田美奈子のカバーから始まり、桃井かおり、薬師丸ひろ子など多数の女性シンガーや女優に歌われてきたが、マニアックな音楽ファンには知られたものの一般のリスナーまでは今一つ届かなかった印象。しかし1996年、意外なことに鈴木雅之率いる男性ヴォーカルグループ「ラッツ&スター」が歌って大ヒット! 大瀧氏は「この曲がこのような落とし所になるとは夢にも思いませんでした」というようなコメントを残していたと記憶している。シャレが効いてるね。

 2013年12月30日、惜しまれつつ大瀧詠一氏が永眠。翌2014年1月4日に営まれた葬儀の式場で、未発表の大瀧自身の声による『夢で逢えたら』が流されたのだった。自らが歌ったバージョンは存在しないと言われていたものの、家族が遺品を整理中にセルフテープを発見したという! そこには瑞々しく完成されたメロディーと、どこか乾いた歌声が漂っていた。遺された家族と友人たち、僕たちファンへの素敵なサプライズだった。

SPECIAL

PR ARTICLE