樅山 敦のラブソングのききかた

Track 7

はっぴいえんど『風をあつめて』

“散歩してたら 汚点だらけの 靄ごしに 起きぬけの露面電車が 海を渡るのが 見えたんです”──日本家屋や町工場だらけの位置からモノレールが見えたのでしょう。“伽藍とした 防波堤ごしに 緋色の帆を掲げた都市が 碇泊してるのが 見えたんです”──羽田空港埋立地だと思う。飛行機発着の旗と町工場も、飛行機関連の鉄工所でしょうね。この楽曲は1971年の大田区東糀谷近辺、大森南の原風景が都市開発によって様変わりしていく寂しさを歌っている。“摩天楼の衣擦れが 舗道をひたす”──ここまでくると浮世離れしてこの世のものではない感じだ。
 
 松本 隆先輩が心の中で描いた風景なのか? 僕の夢想では空港、倉庫、工場のある街はバンドマンたちの練習場所にもってこいで、思う存分に大きな音が出せる場所。喫茶店のおばさん、鉄工所のおじさん、タバコ屋のおばあちゃんの小さな優しさ、そしてこの街自体が売り出し中の「はっぴいえんど」にとって大切な場所だったのでしょうね。心象風景に工夫を凝らして表現した、お世話になった街への感謝を込めたラブソング。有名になろうが成功しようが、片隅の人々を大切にするバンドだったのでしょうね。
 
 僕のルーツは品川区戸越。居酒屋養老乃瀧のお姉さん、桐島屋カレーのおじさん、朝倉のお父さんとお母さん、そして、いわき市の海でナンパした二つ年上の大田区六郷の律子にはめちゃくちゃお世話になった。大井町のアメリカンダイナーで毎回、奢ってくれた。もしも作詞の依頼があったら、1986年のそのあたりの風景と僕の心象風景を綺麗な日本語で書いてみたい。小さなことや人を大事にしない人間に大きな仕事はできない、ですよね先輩?
 
 この曲の一番から三番まで、最後のフレーズにはすべてこうある──“風をあつめて 蒼空を翔けたいんです 蒼空を”。これは願いである。お世話になった人々と街への感謝を忘れない先輩はその後、超スーパーアイドル・松田聖子の作詞でヒット曲を連発。蒼空を翔けまわり、大きな仕事を成し遂げた。
 
諸君、小さなことを大切にすると人生は大きく変わっていくはずだ。

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