樅山 敦の歌謡曲が流れるBARBER

2枚目

ラッツ&スター
『Tシャツに口紅』

 1980年代は“バブル”期。ディスコでみんな踊って浮かれてたね、ブラックミュージックのビートで、いわゆる縦ハネでね。でもチークタイムは女の子と抱き合って踊るんだ。トロ〜リと甘いスウィートソウルでゆる〜く、いわゆる横ユレね。

 
 そんなスウィートソウルを歌謡風土に馴染ませ、独自の道を切り拓いたシャネルズが1980年2月にデビューした。オールディーズのコーラススウィートソウル、いわゆる“ドゥーワップ”をベースにしたオールドスタイルが新鮮でかっこよかった。なんたってコンセプトが明確でわかりやすかったしね。ところが82年に活動休止…ヤンチャしたかな? 心配しちゃったけど、翌年「ラッツ&スター」に改名して、サウンドスタイルの間口も甘さから甘酸っぱさに広げた楽曲『Tシャツに口紅』で活動再開だ。

 
 今聴いても名曲だよ。時間が過ぎて行く切なさ、ほろ苦さを丁寧に表現している平易で普遍的な歌詞と、オールドスタイルのアメリカンポップスをアジャストした曲はやっぱり松本 隆&大瀧詠一コンビの仕事だった。ふたりは名曲請負人だね。録音・保存・再生が当たり前になっている現代では想像もつかないと思うけど、ジュークボックスにコインを投じてたった一曲だけを選ぶ楽しみ、そんな一瞬のささやかな幸せを体験してきた先輩たちが作る音楽は、遠い海の向こうだった古き良きアメリカへの憧れを感じさせる。僕も青春時代を思い出すなぁ、キュンとするし、そそられるね…。

 
 眩しすぎる大好きな女の子を誘い、海沿いのダイナーでダイキリをしこたま飲んで、いい感じになったところでマスターにスウィートソウルを掛けてもらってチークダンスに誘うんだ。だけど「イヤだ!」の一点張りで踊ってもらえなかった。家に帰ってベッドに入っても、踊ってないのになぜか興奮して眠れなかった思い出…。パーティの夜、チークタイムでグッと抱き寄せて、背中からお尻の柔らかいところへソフトタッチで何気なく手を回したら、おもいっきりビンタされた思い出…。耳元で「今夜のパーティで一番輝いてるよ」って言ったら喜んでいたのに、「女はわからないよなぁ」って考えたら眠れなかった思い出…。振り返ると、ダンスに楽しい記憶がないじゃないか…。

 
 気を取り直して、最後にこれを言いたい! この曲が収録されているラッツ&スターのファーストアルバムのジャケットは、なんとアンディ・ウォーホル様のアートワークなんだよ。オフィシャルでの海外提供は初のことらしい。彼らにとって最高の再スタートになったし、極上のプレゼントになったと思うよ。

SPECIAL

PR ARTICLE