樅山 敦の歌謡曲が流れるBARBER

7枚目

杉山清貴&オメガトライブ
『ふたりの夏物語
-NEVER ENDING SUMMER-』

 1985年はシンセサイザーの導入でダンサブルなサウンドが増え、“打ち込み”も目立ち始めた年だった。CDの流通が本格化したのもこの年で、再生プレイヤーが5万円を切り普及に拍車がかかったのを覚えている。カーステレオをCD対応に積み替え、イコライザーでベース音をマックスにして爆音で音楽を聴きながら運転しているヤンキー君が増えていった。そう、漫画『ビー・バップ・ハイスクール』が映画化されて人気になった年でもあったよなぁ、ヤンキーがおしゃれ化してモテモテの時代だったってことだね。僕はもっぱらレコードをレンタルしてカセットテープにダビング、この曲もダビングして車内でカラオケの練習をしていた。

 
 ベースが跳ねてビートで乗れるサマーソング、王道のシティ・ポップス歌謡曲。なんかイイんだよね〜、聴き心地はソフトだけれど構造的にはビートを主要素とするロック。パンクのような騒々しさはなく、あくまでもビートから作られる音楽で、そこにフュージョンのテンションコードと技術の高い演奏が装飾されているから抜群に気持ちいい。航空会社のテレビCMのタイアップが決まり、「オンリーユー 君にささやく ふたりの夏物語」というキャッチコピーを渡されてから作詞作曲に2日、レコーディングに1日、計3日で完成したらしい!

 
 サマーソングはこれくらいインスタントな感じがよくって、こねくり回して深みを出されても暑苦しくて聴かないよね。枝豆、冷麦、冷奴って感じがいいのよ。歌が始まると平面的だが、サビでサウンドと歌唱が一体化すると歌詞が活きてくるんだ。あまりにも有名な“オンリーユー”でフックが効き、なんだか南の島に行きたくなっちゃう歌詞と旋律の関係性にトレンディーを感じたんだよね。航空会社の戦略に乗っかって“限りなく透明に近いブルー”な海に行きたかった、でも僕はもっぱら「いわき市民プール」。森の中にぽつんとある50mプールで、サイドも広く取ってある快適な空間は木々の香りと、塩素の匂いにもむしろ風情を感じていたね。ヤンキーブームとバブル期が重なり、ちょっと怪しい人がたむろし、妙に艶っぽいビキニのお姉さんがデッキチェアでくつろいでいた、不思議な迷宮に迷い込んだようなおもしろさがあった。怖さも感じていたあの雰囲気は、今思うとかっこよかったよなぁ。ひぐらしがカナカナカナ… と鳴き始めたらメロータイム。夕涼みをしながら森からの風と夕陽を感じつつアロハシャツを羽織り、公衆電話からカフェバーに予約、灼けた肌の女の子と待ち合わせをして、ダイキリを2、3杯ひっかけたらカラオケスナックへ。一発目はもちろん、この曲を歌うんだ。夏の週末は毎夜熱かったなぁ。

 
 そうそう、令和元年のサマーソングを男性ヴォーカルでセレクトしてみました、よかったら聴いてみてね。

 

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