アン・ルイス
『恋のブギ・ウギ・トレイン』
ハーフのアイドルが人気だった1970年代、アメリカでは健康志向が強まりフィットネスが流行、健康のための運動──要するに食ったら動く、お酒を飲んだら踊る、みたいな動きになっていた。ベトナム反戦運動などを背景に社会的なメッセージを詩情豊かに歌った音楽が主流だったけれど、社会運動が沈静化に向かった影響もあるのか、メッセージ性は稀薄になりダンサブルなフィラデルフィアのブラックミュージックが注目されるように。それでディスコという場で踊りだしたんだね。チャカチャカと刻まれる16ビートに合わせてステップを踏み、女にも男にもキラッキラに輝ける魔法の粉を振りかけてくれるダンスフロア、それがディスコ。
その流れで1977年の映画『サタデー・ナイト・フィーバー』が大ヒットしてディスコブームは頂点に達し、日本にも人気の波が押し寄せた1980年、グラビアアイドルとしても活躍していたアン・ルイスさんが放った最高のディスコ歌謡曲がこれ。特徴は、いわゆるループ。同じフレーズの繰り返しでも人を飽きさせない感覚、そこにグルーヴが加わった享楽的なダンスミュージック、サビから始まるアッパー感がたまらないね。早くイカせようとする技術が施されているから、超盛り上がる楽曲なのよ。
ポジティブな歌声も素晴らしいし、なんたって本牧の米海軍住宅“ベイサイドコート”育ちのネイティブイングリッシュを自在に操る、早すぎたディーヴァだからね。ルックスはエキゾティックでちょっぴりキュート、クリスタル・ケイ、BENI、AI、韓国からのちゃんみなと、女性バイリンガルシンガーの系譜がアンちゃんから脈々と続いているね。日本の女の子の中にあるキャリア志向には英語が話せることがとっても重要で、バイリンガルが価値になっているしね。上昇志向で前向きな考えを持つ女の子たちがセクシー、キュート、ストロングなほうに流れる傾向ってすごく魅力的だと思うよ。
それにしても画期的なコード進行だよなぁ、ほとんどメジャー7thで構成されている。今回はちょっと専門的なことも調べました。コードって3つ以上の音を同時に鳴らした響きで、それぞれにCやGといった名前がついているの。“メジャー7th”は3音で構成されるメジャーコードに下から7音階目の音を加えたコードのことで、いわゆる普通の「シ」の音を指します、シだから高い声だよ、アンちゃんのハイトーンは素晴らしいね。ざっくり言うと、メジャー7thを使うと都会的で洗練された音になるからディスコミュージックでよく使われる。日本で一番メジャー7thの摂取量が多い作曲家は… ダントツ、山下達郎! そう、このブラックミュージックへのリスペクトで作られた楽曲は達郎先輩の作品、名付けて「黒タツ」。ちなみに最近はほぼ白人ポップスのリスペクトだから「白タツ」ってことになるのか? まぁいいや、この曲は1980年6月リリースで、9月の『Ride On Time』で達郎先輩がブレイクしたのを爆発とするならば『恋のブギ・ウギ・トレイン』は導火線だね。男気ならぬディスコ気で、大成功。いや〜好きすぎて、今回は「黒タツ」なセレクトでプレイリストを作ってみました。
BOMBER/山下達郎
『GO AHEAD!』収録
恋のブギ・ウギ・トレイン/アン・ルイス
Apple Music Spotify
WINDY LADY/山下達郎
『CIRCUS TOWN』収録
SOLID SLIDER/山下達郎
『SPACY』収録
DOWN TOWN/シュガー・ベイブ
『SONGS』収録
メリー・ゴー・ラウンド/山下達郎
『MELODIES』収録
あまく危険な香り/山下達郎
『FOR YOU』収録
MUSIC BOOK/山下達郎
『FOR YOU』収録
RIDE ON TIME/山下達郎
『RIDE ON TIME』収録
樅山さんによる
Spotifyプレイリストも公開!