樅山 敦の歌謡曲が流れるBARBER

11枚目

薬師丸ひろ子
『Woman “Wの悲劇”より』

 1978年、デビュー作で共演した故・高倉 健さんから言われた「チャラチャラするなよ」が今日に至るまでの座右の銘になっているという薬師丸ひろ子さん。いい話だね。そして5本目の映画撮影中、相米慎二監督からの「主題歌はお前が歌え」という一言がきっかけで歌手活動が始まったんだ。『セーラー服と機関銃』とか代表的な曲はいろいろあるけれど、僕に刺さったのは10作目の映画『Wの悲劇』の主題歌、松任谷由実さんからの提供で「人に作った曲で最も好き」との逸話がある楽曲だ。
 
 素晴らしい方々とお仕事をしている女優が歌う歌謡曲、1984年の当時では珍しかったし、表現力が豊かで涙が出ちゃうほどグッとくるんだ。だって本業は女優だからね。あのオードリー・ヘップバーンですら、映画『ティファニーで朝食を』で歌うシーンは吹き替えにしようとスタッフは考えていたらしいよ。作曲家のヘンリー・マンシーニが彼女の声質を研究して、狭い音域でも歌いやすく特別に作曲したのが『ムーンリバー』だったんだってさ。それはそれでとてもいい味を出していた、でも薬師丸さんは違う、本当に凄いんだよ! 本編のコードからサビのジャズコードはまるで色彩が変わるかのような転調。不安定で難しそう、ドレミファソラシドから一音分浮いてる“ナインス”を使ってる。実はキーがかなり高い、だけどここが最大の聴かせどころ! 乗り越えないと曲が成立しないし、感動を与えることはできない。雰囲気で歌っちゃグッとこないのよ。しかし彼女は少しの狂いもなく、めちゃくちゃ透き通る声で歌い上げている、まさにクリスタルヴォイス!
 
 僕は、歌手と女優の違いは“艶”なんだと思ったんだ。薬師丸さんの歌には艶があるんだよね、素晴らしい! もちろん各国の女優が歌った楽曲も嫌いなわけじゃないから、「歌う女優プレイリスト」を作ってみた。聴いてみてね。
 
 この映画に出演後、女優を辞める決意をしたという薬師丸さん。歌も映画も大ヒット、本業じゃないのにそこらのプロ歌手より上手いんだから、風当たりもよろしくなかったりしたのかなぁ…? 漫画家の蛭子能収さんの楽屋に、共演する芸人が挨拶に行かないらしい話と似ている気がする。圧倒的に上手だったり、おもしろいと、本業の人たちはおもしろくないのかも知れないね。あ、話が逸れた。いろいろあったみたいだけれど、現在では母親役も板に付き、シリアスもコメディーもこなせるベテラン女優。ドラマ『あまちゃん』での「続けるのも才能よ」ってセリフを思い出した。
 

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