樅山 敦のラブソングのききかた

Track 2

星野 源『恋』

 思い浮かんだキーワードは「細野晴臣」「童謡」「童話」。前奏はやたらエキゾチック。70年代ポップスの名盤、細野晴臣『泰安洋行』『トロピカルダンディ』の影響でしょうか? 絶対好きでしょう! ハワイ、インドネシア、ポリネシア、中国、台湾も含むリゾートへの憧れを込めた“想像の中のトロピカル”な楽曲たち。星野 源が2000年に組んだバンド・SAKEROCKにもこの感じはあったなあ。そっち方向に寝そべっていくのかと思いきや、歌が始まると何とも小気味良いリズム。“カラスと人々の群” “ただ腹を空かせて”──これは「カラスが鳴くから帰ろう」というフレーズの童謡だろう。代官山でも17時にこの曲が流れる。要するに、子供たちはお家へ帰ろう、そしてお母さんの手料理を待ちつつお父さんも待つよね、という昭和から引き継がれるスタンダードな家族愛。“みにくいと 秘めた想い” “白鳥は運ぶは 当たり前を変えながら”──自分を醜いと思い込んでいたアヒルが成長して綺麗な白鳥になる童話「みにくいアヒルの子」を連想。人は誰もが白鳥のような美しさを秘めている。そんな自分愛と自分応援。星野 源、絶対に「鳥」が好きでしょう!

 そしてキーワードは「ドラマ」「甲子園」へとシフトしていく。“恋せずにいられないな 似た顔も虚構にも”──「虚構」という言葉、これはテーマソングに使われたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で描かれていた契約結婚。いわゆる恋愛結婚やお見合い結婚とは異なる、仕事としての結婚。極端な設定だったが面白かった。“夫婦を超えてゆけ”とはドラマの内容に沿った歌詞。“二人を超えてゆけ” “一人を超えてゆけ”──人の数が減っていく、ここが重要! 恋する対象は何でもいい、それが虚構であっても、恋の本質は一人を超える力なのだ。と、ドラマの縛りを超えてみせたラブソングなわけです。

 YouTubeの再生回数が1億を余裕で超えているこの曲、なぜこんなにも好まれるのか? それは「一人」という孤独感、「醜い」という劣等感を超える力を誰しもが持っている、という、ラブソングでありながら王道の応援歌でもあるから。そして軽快なリズムと明るいアレンジは、最初から甲子園ソングを狙っていたでしょう。星野 源、アンタ天才!

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