樅山 敦のラブソングのききかた

Track 5

山下達郎『REBORN』

 50年代のアメリカン・ポップスに憧れ65年を生きてきた山下達郎が書いた、普遍的な愛を歌ったラブソング。1980年の『RIDE ON TIME』の“青い水平線を いま駆け抜けてく”というフレーズに心の振り子がスウィングし、風が起こり、発光した。小学生だった僕は完全に魅せられた。あの頃とほぼ変わらない歌声の最新ナンバー『REBORN』を聴く。

“生きることを教えてくれた あなたを忘れないよ”──歳を重ねた山下達郎を聴き、おじさんになった僕の心に染みる切なさに思わず涙が出た。去年の4月に亡くなった祖母のことが頭に浮かんだのだ。生きるとは何かを教わった祖母は享年96歳。今でも耳にこびりついて離れない言葉が三つある。「圧倒的を一つ作れ」「目指すものを明確に」「そして結果を出せ」。まずは「目指すもの」を決めた。1988年、床屋ではなく“バーバー”を作るという旗を掲げた。苦しかったヘアメイクの仕事で軍資金を調達し、どうにか漕ぎ着けたのは祖母のおかげだと思っている。時々、僕がヘアメイク仕事の愚痴をこぼすと、アメリカ映画とサクッと揚がった天ぷらが大好きだった祖母が「おまえの way to live はどうした?」と無表情で一言。刺激され、戦いの魂を呼び起こされる言葉だった。

“命の船に乗り どこへと行くのだろう” “永遠のどこかで 私を待っている” “たましいは決して滅びることはない いつかまた きっとまた めぐり会う時まで”──これは輝きと哀しみ、そして生と死の、愛の歌だ。シンプルで音数が少ない楽曲だからこそ歌詞が身に染みわたってくる。名曲はいつもそうだ。荒井由美『卒業写真』やジョン・レノン『イマジン』は派手な展開もなく、ただひたすら言葉が脳をかすめ、身体の隅々にまで入り込んでくる。達郎先輩の曲、1982年の『FUTARI』も同様に耳にこびりつく圧巻のバラードだし、1983年の『黙想』も詞が脳裏に浸透してくる。

 誰だって、心の奥に生きることへの切なさを抱いている。綺麗事ではない、化け物のように内面で蠢くものがある。時が経つことは誰にも止められず、死と向き合うときが必ずやってくる。人が生まれ、20歳になり、50歳になり、やがて70歳になり、死んでいく。これは宿命なのだ。自分の人生は「圧倒的」だったか? 結果を出せたか? そんなことを考えずにはいられない。

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