吉川晃司
『サヨナラは八月のララバイ』
吉川さんは踊れるロックを自ら体現、徹底したサービス精神と人を食ったようなユーモアを持ち合わせた最高のロックンローラーだと僕は思う。高校時代は水球の日本代表で2年連続最優秀選手賞を受賞、持ち前の運動神経を遺憾なく発揮したライヴは迫力満点のエンターテイメント。実は1990年代に一度だけヘアメイクをさせていただいたことがあるんだ。ご本人は撮影当日にかなり遅れて到着、山の中でテント生活をしていて時計がなく、太陽の高さを見て来たから入り時間が遅れた──なんて本当なのか冗談なのかわからない感じで話していたなあ。メイクを始めたらめちゃくちゃお酒臭くて、くさッ! と思わず言ってしまったら爆笑していたお茶目で豪快な人。撮影終了後、山に帰ると言って愛車の69年式フォード・マスタング(映画『ジョン・ウィック』でキアヌ・リーブスが乗ってるやつ)で爆音を立てて颯爽と帰って行ったが、そこにはテント生活を1ミリも感じさせない姿があった。
前置きはこれくらいにして。『サヨナラは八月のララバイ』は1984年初夏に大ヒット、ガラスが壊れる音から始まるイントロが梅雨空を吹き飛ばしてくれそうなインパクトある楽曲、始まりから気分がアガるロック色が強めの歌謡曲だ。僕は光あふれる夏が大好きで、梅雨明け宣言を待ちわびる青年だったからね。曲調はグラムロック、72年のイギリスが発祥のグラマラスなロックからきているジャンルで、アメリカでは“グリッターロック”と呼ばれてたかな。リフを多様化してロックに落とし込んだ曲作りが特徴だね、わかりやすい例はデヴィッド・ボウイ、曲だったら『キャット・ピープル』を聴いてみてね。きっと吉川さんも影響を受けたんだと思うよ、日本語の歌詞にドライヴを効かせて英語っぽく歌う工夫をしていたし、メーキャップもキマってたなあ。
ロックスターは身近な兄ちゃんじゃダメなのよ。スーツを着て歌うのもグラムロックの特徴で、エディ・スリマンが手掛けていたサンローランの世界観がドンピシャ、吉川さんは長身のアスリート体型、それに84年にエディはいないからビスポークやお直しで上手にやり繰りしてグラムロッカーに寄せていたと思う。しかしまぁすごい方ですよ、近年は役者でもいい味を出してるし、もちろん音楽も現役バリバリだしね。一つ年上の吉川先輩、励みになります。